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[ 85] 「価格下落曲線」が「コスト下落曲線」と交わる時 - 材料で勝つ - Tech-On!
[引用サイト]
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20051219/111735/
デジタル家電製品を中心とした急速な製品価格の下落が日本の製造業を苦しめている。業界初の新製品を投入して最初は利益が出たとしても,競合他社が模倣によりキャッチアップして価格が当初の予想よりどんどん下がっていき,ある時点でコスト曲線を下回るようになり赤字化する,というパターンが多い。この負けパターンから抜け出すためには,「価格下落曲線」が「コスト下落曲線」と交わる時期を見極め,タイミング良い新製品投入とコストダウンを進めて,二つの曲線が交差しないようにする必要がある。その開発リソースを確保するための「選択と集中」が待ったなしである。 【図1】製品を開発・発売した後の製品価格下落曲線とコスト下落曲線。両曲線が交わると赤字になる。どの程度の期間で交差してしまうかを判断し,交差しないような対策が必要 当コラムに書いた内容がきっかけになって先週(2005年12月初旬),ある中央官庁で日本の製造業の競争力を上げるための政策を立案する立場の方々と懇談した。自由に意見を交換するという設定だったので,当社からも何人か参加して,特にテーマは決めずにブレーンストーミングを行った。そこで出た話題の中で筆者が最も興味をそそられたテーマの一つが「製品価格とコスト」の関係についての議論だった。 ある担当者の方は,製品を開発・発売してからのコストと価格の関係をざっとメモ用紙に書いて(図1),「これからは,製品が発売されてからどの程度の期間で製品価格がコストを下回るのかについてもっと注意を払った戦略が必要なのではないでしょうか」と語った。 日本の企業がかなりの開発費をかけて業界初の製品を出したとする。最初は他社と差別化している製品であるために高価格で売れ,利益を出す。しかし,利益を出していることがアジア含めた他社に知れると,必ず模倣され,類似製品が出てきて,価格が下がっていく。そしてある時点で価格曲線とコスト曲線が交わり,それ以降は作っても赤字がかさむ構造になってしまう。 利益は,製品を発売して価格曲線がコスト曲線を上回っている領域で出る。そこからさらに開発費を引いた分が利益になる。思ったよりも短期間で価格が下がると開発費すら回収できないという状況になってしまう。日本のデジタル家電メーカーの多くはこうしたパターンに陥って苦慮しているようだ。この負けパターンに陥らないためにはどうしたらいいのだろうか。 まず考えられるのが,製品価格を下げないようにすることである。議論の中でも,ブランド価値を上げるとか,ストーリー性を持たせるとか,まねのできないキー・コンポーネントを搭載するとか,人間の「本能」に沿った製品を作るとか,いろいろな意見が出た。その中で,なぜ自動車の価格下落はデジタル家電ほど急ではないのか,という話になった。前述の価格対コスト曲線を自動車に当てはめるとどうなるのだろうか。 どこかに調査レポートなどがあるかもしれないが,とりあえず筆者の推測で文章を進めさせていただくと,自動車にしても1車種の1モデルだけを見たら価格は下がっているに違いない。しかし自動車の価格下落は,競合社数が少ないこともあるだろうがデジタル家電よりは下落のスピードが遅く,コスト曲線を下回る前に,余裕を持って新モデルを投入できる(図2)。新モデル投入時には必ず新しい技術・機能を盛り込む。ユーザーは新機能が追加されているならば,少しくらい価格が高くても受け容れる。 【図2】自動車の製品価格とコスト曲線。モデルチェンジのたびに新機能を投入して価格下落を防いでいる。高級車種向けに開発した新機能を1世代後の普及車種の新モデルに投入して開発コストを削減している。新モデル開発期間を短縮することによって,タイミングよくコストダウンを進め,コスト曲線は価格曲線を上回ることはない もう一つ重要なのが,自動車では新機能の多くが高級車種にまず搭載されることである。開発コストを加味すると,この高級車種だけに適用している段階ではそう大きな利益は出ていないのではないかと思う。しかしその後,開発した新機能を次の普及車種に搭載することで,開発コストを抑えた形で多くの新車を販売し,利益を出す。そうは言っても普及車種は価格の絶対額が小さいので,新機能を盛り込んだ上で価格を大幅には上げないために自動車メーカーはコストダウン技術面で相当の努力をする。そして,普及車種で培ったコストダウン技術と利益は,再び高級車種の開発にフィードバックするという良い循環ができているようである。 もちろんタイミングよく新モデルを投入するために自動車メーカーは開発の効率アップを進めている。日本の自動車メーカーのデザイン決定から発売までのリードタイムを見ると,10年ほど前は30カ月かかっていたのが最近では20カ月を切るようになってきている。一方で欧米メーカーはまだ20〜30カ月はかかるところが多いと言われ,これが日本の自動車メーカーの強さの一因になっている。一方でコストダウン面でも,例えばトヨタ自動車はここ10年ほど設計の合理化だけで年間約1000億円のコストダウンを続けているといわれている。逆に言うと,トヨタの利益1兆円はコストダウンをしなければ吹き飛ぶ計算になる。 筆者は先日,ソニーで開発革新を進める立場の方と食事を共にして懇談した。その際,自動車とデジタル家電の違いについての議論になった。その方が強調したのが,自動車とデジタル家電では,製品種類の数がまったく違うということだ。自動車メーカーは高級車と普及車といっても自動車であることには変わりがなく,開発リソースを1つの製品機種に集中でき,部品や要素技術の共通化も図りやすい。このため,開発リードタイム短縮や設計の合理化がしやすいのでないか,という。 しかし,デジタル家電は「三種の神器」といわれているものだけで薄型テレビ,DVDレコーダ,デジタル・カメラと三つもあり,ほかの製品も含めると膨大な数に上る。1機種だけに開発リソースを投入できる自動車メーカーと,同じ土俵で議論しても意味はないとその方は主張する。多くの機種を抱えながら,限られた開発リソースの中で,できる限り効率的に開発を進めなければならない開発現場の厳しさは相当なものだという。 つまりは,これだけ増えてきた多くのデジタル家電すべてを扱うことはソニーほどの大企業であっても無理なのである。日経ものづくり誌は2005年12月号の特報「ソニーは復活するか---営業利益率4%の成算と開発力強化の処方箋」の中で,ソニーの屋台骨であるテレビ事業が赤字に陥った原因は,IT事業やゲーム事業などへと開発リソースを分散させてしまったためだと分析している。開発リソースが分散した結果,薄型テレビの設計力が下がって開発スピードが落ち,例えば松下電器産業が「ビエラ」ブランドについて1年に2回のサイクルで新製品を投入しているのに対し,ソニーは「ベガ」ブランドについて,実質的には1年に1回の新製品投入サイクルになっていると見る。 通常,同一製品モデルの場合,新製品を投入するたびに設計に工夫を加えてコストダウンを進めるので,ソニーは結果としてコストダウンを行うサイクルが松下電器よりも長いのではないかと日経ものづくり誌は分析する。価格とコスト曲線で見ると,価格下落にコストダウンが追いつかないと赤字幅が拡大してしまうのである(図3)。 日本の製造業でも「勝ち組」といわれる松下電器,シャープはいずれも開発リソースを投入する機種を絞り込んで1モデルあたりの技術者の数を増やして,開発スピードと設計力を上げた。ソニーがやるべきことは,なりふりかまわず勝ち組のやり方を模倣して,キャッチアップすることのようである。 さて,冒頭で述べた中央官庁の担当者は,価格対コスト曲線(図1)を描きながら「価格と曲線が交差した点が『コモディティ化』するということではないか」という。企業が脱コモディティ製品のつもりで開発しても,ある期間でコモディティ化してしまう。その期間を最初から念頭において開発を進めることが重要でないか,というわけだ。 背景には,日本企業はこれまで製品価格が下落しないような方策,特に脱コモディティ戦略に目が向きすぎていたという傾向がある。さらに,深層には「擦り合わせ」の重要性を当社含めたメディアや中央官庁が強調する余り,それだけをやっていればいいという自己満足的な雰囲気を醸成した面がないだろうか,という議論になった。 もちろん「擦り合わせ」の力を磨き,他社が簡単にまねができない高度な差別化された技術を開発し投入することは大切なことであるし,基本でもある。だが,擦り合わせでコストをかけて作ることが多い高級品の市場規模は一般に小さく,売り上げ規模も小さくなって利幅も多くは見込めない,という面があることも否定できない。高級品だけに傾斜すると,縮小均衡の道を歩むことにもなりかねない。 以前の本コラムでも述べたが,脱コモディティを追求する一方で,コモディティ化から逃げず正面から取り組む両面作戦をとることが大切なようである。コモディティの世界で生き残る一つの指針としては,価格下落曲線とコスト下落曲線が交わる時期をしっかり見極め,その時点で,新製品を投入するなり,コストダウンを進めて,けっしてを曲線を交差させてはいけない。そのために今最も重要なことは新製品を投入できる開発リソースを集め,徹底的なコストダウンを進めるために,「選択と集中」への舵をとることである。 【図3】コストダウンを頻繁に行う場合と,少ない場合の製品価格とコスト曲線の関係。コストダウンの頻度が少ないと,一度にコストダウン幅を大きくしても赤字になる時期ができてしまう(日経ものづくり2005年12月号p.103の図8を元に筆者が作図) 【IPF】大成プラス,ナノレベルの凹凸を作りこんだアルミと樹脂の一体成形技術を公開(2005/09/29) 鈴鹿富士ゼロックス,事業化に向けて樹脂リサイクル工場が稼働(2006/04/18) クラレ,加工性と光学特性を改良した液晶ディスプレイ用偏光フィルム材料を開発(2005/12/09) 古河電工,新架橋技術により難燃性と高い強度を両立したノンハロゲン電線を発売---耐熱PVC電線の代替ニーズに応える(2005/11/29) JFEスチール,常温で高密度の成形体を実現する偏析防止処理粉を開発---加熱設備不要で低コスト化に貢献(2006/08/31) 昭和アルミパウダー,メタリック塗装のアルミニウム・ペーストを値上げ(2006/02/16) 投稿されたコメントは,日経BP社の媒体において,読者からのコメントであることを明示した上で掲載・引用する場合 家電であれば,「安かろう悪かろう」でも死ぬことはありません。命を預けるという点で,自動車メーカーのブランドは重要だと思います。そういう意味で,ファンヒータの回収を呼びかけるコマーシャルは,松下電器にとってマイナスではなく,格安ブランドにこそダメージを与えるでしょう。(2005/12/20) ■記事の内容は,メーカーの開発担当者は充分理解しているのだが,自動車と違って台湾・韓国に技術が流出してしまったPC/デジタル家電の場合,3ヶ月周期で新製品を出さないとコモディティ化してしまう。過当競争だが,技術流出させてしまった責任も大きい。 また,どのメーカーも「世界3位以内のシェアを取らないと事業の意味が無い」という時流に振り回され,みな,トップシェアを目指したため,供給過剰に陥り,価格下落に拍車がかかっている。これはマスコミ等にも責任はあると思うが,メーカーの経営戦略部門がいかに愚かかということを示している。 この分野では,利益を出すのをあきらめた方が賢明。今後は,いかに他社と違う事業をやるかがキーではないか?(2005/12/20) 自動車は家電より高価なので,下取り価格の高さは買い替えに対して重要な要素となるが,家電は下取りという概念がないから,買い替えがし易い。モノのリサイクルを考えることは「地球環境にとって有効」と考え易いが,そうではないのかも知れない。 リサイクル,すなわち中古車価格を大きく下落させたくないユーザーのために,自動車は価格の下落率を大きくできないのではないか。自動車はそれを理由として値下がりし難く,それが新型製品の遅い出現サイクルを許している可能性がある。つまり,リサイクルは単品を永く使うという傾向を導き,下落率を小さくして新型への買い替えを遅くする役割を持っているのではないか。 根本的に車という垂直統合型ビジネスと,家電やパソコンなどの水平分散型ビジネスでは,参入障壁の高さが全く違うということが考慮されていません。また付加価値の源泉が,車ではインテグリティ(高度に要素技術を統合すること)にあり,これは日本人の得意な「匠の技」が活きる領域なのに対し,家電やパソコンでは付加価値は「チップ」や「ソフト」にあります。つまり,半導体ベンダーやOSベンダー(家電にもOSはある)が儲かる構造になっているわけです。 もし戦略的に本稿を論じるのであれば,最終商品にポジショニングし続けていること自体が間違っているような気がします。(2005/12/20) ■筆者に問いたい。「今と同じ価格帯,もしくはそれ以上で,機能アップ・性能アップしたデジタル家電を購入しますか?」と。答えは「いいえ」だと思います。モデルチェンジをする度に機能と共に価格がアップする自動車と,新らしいモデルが出る度に,機能はアップするが価格が大幅に下がる家電とを同じ土俵で議論すること自体,業界を知らないと言わざるを得ません。なぜ自動車が,最低でも価格維持,もしくは価格アップが消費者に容認されているのか,その観点が欠落しています。(2005/12/20) ■デジタル家電と自動車を例に取るのは,少し違うと思います。物に対する比較は同じでも,値段があまりにも違いすぎる。 消費者は,少し無理してでも手が届けばそれを購入しようとする。しかし,車は高級車というと手が届かない。大衆車で満足してしまう。家電の値段が下がるのは,ネット時代の到来で今まで宣伝に乏しかったお店でも,ネットを活用すれば成り立つ。売れる製品を作れば,模倣品が出るのは当たり前で,極端な話,利益を求めるのなら作らない。メーカーは特徴あるもの(息の長いもの)を作るべきだと思う。(2005/12/20) ■高級機種は単独では売れないかもしれないが,ブランド力を高める効果は無視できないと思う。それにしても,コモディティ化の弊害は次の開発の原資がなくなる等,大きな問題なので,継続して取り上げてもらいたい。(2005/12/20) ■家電の場合,たいてい欲しいものはすでに持っていると考えると,買い換えをいかに実現し,消費者が新しい価値にいかに金を出してくれるか,がポイントになると思う。 メーカーは消費者の「欲しい価値」を常にウォッチし,気づいていない「価値」を気づかせることによる動機付けの努力により,買い換えや製品価格の維持が必要と思います。買い換えだけでなく,修理,サービスといったインフラを活用すると,バージョンアップ,レトロフィットという自社製品へのビジネスが可能になる。 昔買った80GBのハードディスクのディスク容量を500GBに変えるというだけで,囲い込みビジネスが可能になる。このときは,修理のように長期間(約2週間)預けなくても対応できるサービス体制が必要になる。 うちのハイビジョンテレビに,購入時についていなかったHDMI端子を付けてくれないかな…?(2005/12/20) 技術的な優位を長期にわたって維持しにくいデジタル家電は,デザインで勝負です。最近,家電量販店に行って,特に目を引く商品に出会うことがほとんどありません。デザインする場合,日本の文化を前面に出すのか,販売国の文化に合わせるのか,値ごろ感を出すのか,明確にデザインコンセプトを決めていないのではないかと思われます。 30年ほど前のことですが,スペインの小さな町にあるカメラ屋のショーウインドウのほぼ中央にあったコニカの一眼レフカメラの印象は強烈でした。見事にスペインの建物にマッチしていました。また以前,ノキアで携帯電話とPDAを合体させた試作品を見せてもらったことがありますが,このデザインは「まさしくヨーロッパ」といったデザインでした。 筆者は車のことにも触れていますが,これぞまさしく,販売国に合わせたデザインで成功した例ではないでしょうか。日本人にはちょっと違和感のあるファットなデザインでも,海外では売れるのですね。 ソニーもあのトランジスタ・ポータブルテレビのように世界のショーウインドウを飾ったことがあるのですから,がんばって欲しいものです。(2005/12/20) 自動車は,それ自体が極めて複雑です。例えば,HDDナビを装備した車を開発しようとしたら,ナビの部分だけで「液晶テレビ」と「HDDレコーダ」「カーナビ」の開発部隊が必要なわけで,家電メーカーの複数の部門を寄せ集めたほどのリソースが必要なはずです。さらには,エンジンやらミッションやらブレーキやら…。単純に「車」と数えれば1つになりますが,「自動車メーカーは車だけだから,リソースの集中ができるんだよ」というのは暴論でしょう。 それと,車と家電の違いでもう一つ注目すべきは,価格下落の「大きさ」です(「速さ」ではありません)。デビュー直後の価格に対して,「モデル末期」においてどの程度価格が下落したかを車と家電で比較してみれば,家電の方がはるかに下落幅が大きいと思います。理由はいろいろと考えられますが,私は「消費者は家電にその程度の期待しかしていない」からではないかと考えています。 この仮説を裏付ける状況証拠は,CEATECとモータショーの開催規模(期間と総入場者数)の差です。これが家電の限界なのかも知れません。(2005/12/19) ■このコラムを読んで感じたことは,日本の電機メーカーは,直面している負けパターンを見誤っていないだろうか?と言うことです。 携帯電話においても,振って番号を認識する携帯電話機など,サムスン電子は世界初の製品を怒涛のように繰り出して,日本メーカーよりも先を行っています。すでにコモディティー化を考慮した開発をしているのです。もはや,日本の電機メーカーが最初に開発できるという状況ではないと思います。 日本の電機メーカーに必要なのは,技術力を他社に先駆けて死に物狂いでで研究し,かつコモディティー化にも対応できるスピーディーな対応ではないでしょうか? 的確な投資判断も必要だと思います。オンリーワンだけでは勝ち残ることはできないと思います。コモディティー化された分野で勝ち残らなければ,新技術の研究開発投資のお金はどこから湧いてくるのでしょうか? 今,日本のメーカーに必要な戦略は,コモディティー化する時期を見越しての開発と,韓国,台湾,米国メーカーに負けない技術力を学ぶことではないでしょうか?(2005/12/19) なお,投稿されたノートは,日経BP社の媒体(雑誌や書籍などの紙媒体を含む)において,Tech-On!の記事に読者からいただいたノートであることを明示した上で転載・引用させていただく場合があります。 あらかじめご了承ください。 「より深く,大面積を加工」,ガラスに直接加工する技術の現状をオリンパスと日本板ガラスに聞く【訂正あり】 三菱ガス化学,光センサーやディスプレイ,太陽電池に使える無色透明の耐熱性ポリイミド樹脂フィルムの量産を開始(14:09) 「チープレーバー・ギフト」と「オープン・アーキテクチャーの進化形?」---『ウィキノミクス』を読んで 07/30
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